演劇

表と裏と、その向こう (イキウメ)

演劇チラシ:表と裏と、その向こう[評価:★★★★]

芝居の序盤で、この町が「IDカードによる完全な住民掌握をしている特区」である事が明かされれるので、映画「ガタカ」のような「管理社会への挑戦」をテーマにした闘争話かと思ったら、それは気持ちよく裏切られる。 
住民達の多くは、陰陽併せ持つ管理社会を受け入れており、「陽」に頼りきった治安のよい生活を傍受し、必要になれば「管理社会の隙」をついて「陰」の一部を利用して人生を送っている。 
観客は、住民基本台帳・Nシステム・街中にある防犯ビデオ等にこの「管理社会特区」を重ね合わせるだろう。しかし、この芝居の脚本のキモは「陰」に何を連想し、管理社会を運営する「政治機構」はどういった仕組みで意図は何か…という、観客の想像力をかきたてるSF小説的な楽しさにあるとは言えないか。 

気が付かないうちにかすめ取られている「1/30sの生命」を、税金だとか、プライバシーに当てはめるのはたやすい。未来技術で可能になった、お金と引換にする「自由な時間(=心と置き換えてみよう)」といった仕組みを、文明の発達でかえって「忙しくなった(=心を亡くした)」という解釈もあろうし、床が傾いた不安定な足場が「上層部」で、自由を売り買いする「最底辺」が水平で安定した舞台になっているのも(流行語で言うところの)階層固定社会を想像させられる。 

演出は淡々としたものだが、時間の売人が自身を「神」に重ね合わせながらも結局は最底辺の住人である状況など、この芝居の魅力は観客の想像力をかきたてる脚本の妙に凝縮されている。想像の為の種はそこら中に撒かれている。何も撒かずに「投げっぱなし」の意味不明な話が多い中で、たいへん良くできた脚本であろう。 

蛇足ながら、一説。 20年ほど前から「卒業したら実家を出て一人住まい(という苦労)をする事が偉い」という風潮が生まれている。雑誌や新聞で当たり前のように書かれるうちに誰でもそう思いこんでしまっているが、広告業者としてひとつ警告しておく。この風潮は、「独立した社会人」が増えれば、賃貸住宅や家電品・生活用品の需要が増えることを狙って展開されたキャンペーンである。 「ああ、実家住まいなんですか」と眉をひそめるあなた、気が付かないうちに30分の1秒を差し出しているかもしれませんよ?

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