(当日1500円)
[評価:★★★★★]
FM放送局の看板パーソナリティである秋吉フローレンス真智子は、結婚を控えた彼氏のマザコンさに不安を隠しきれない日々。とうとうディレクターの一言に傷ついてしまい、番組への登板を拒否してしまう。せまる放送開始時刻に焦るスタッフだが、長引いた掃除のせいでたまたまスタジオにいた清掃員のおばちゃん3人が、フローレンスの替わりにマイクを奪いしゃべり出してしまう…!
劇団PA!ZOO! 一連の作品の中で、オレがもっとも好きな脚本の再演である。「お掃除おばちゃん」シリーズはこの後2作品(…だよね?)創られているが、他作品は「おばちゃんのノリと奇行だけが過剰に演出」されているので、やはり物語作品として面白いのはこっちである。(オレアゴは『ストーリー原理主義』を掲げています。為念)
この作品における「お掃除おばちゃん」は、映画でいうなら寅さんであり、浜ちゃんであり、無責任男であり、そしてエノケンのようなコメディーリリーフの役回りである。シリアスな悩みや焦りにたじろぐ場面で、笑いながら「内なる願望」の背中を押していく、粗野だけど人情あふれる道化者。あくまでストーリーの主軸は「フローレンスが再びマイクに向かい、番組を成立させるのか」であり、その裏側で進行する暴言を吐いてしまったディレクター・石崎が、『あがり症で果たせなかった夢』をフローレンスに安心して託せるようになる成長の物語が、隠れたドラマとして展開するのである。…パーソナリティからADに「降ろされた」山田の、決して表には出さない挫折のペーソスは、石崎の過去を連想させるものであろうし、彼女の「それでもラジオ番組の制作に関わりたい」という熱意は、そのままが石崎のたどったイバラの道を暗喩している。だからこそ「あんたの替わりなんて、どこにでも居るんだ」という暴言は、吐いた本人そのものを傷つける一言として、重く沈殿しているのである。
(これ以後、「お掃除おばちゃん」シリーズは、おばちゃんの奇行愚行博覧会の様相を呈していくようになる。ドラマのコメディーリリーフとしての復帰を待ち望みたい。)
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