演劇

デコラヴ(藍色りすと/福岡県)

デコラブ(藍色りすと)(前売1800円)
[評価:★★★★]

散らかった部屋に美少女ゲームやフィギュアだらけのヲタ高生・リョウヘイは、通学電車でいつも見かける良家のお嬢様キリコを好きになってしまうが、痴漢だと突き出されて傷心の日々。見るに見かねた幼なじみの女の子や妹達「ヲタク男改造計画」を発動、キリコとのデートを取り付けるところまでこぎつける。しかし、当のお嬢様は深刻な家庭内虐待を受けており、チャットやメールでしか会話のキャッチボールができないうえに対人依存症の様相を呈していた…。

チラシの「世界中が萌える!? 美女とオタクのガールズパンク!」てなコピーと可愛いイラスから、「電車男」を彷彿とさせるファイ・フェア・レディ様(よう)のわかりやすいラブコメかと思うでしょ? 芝居の始まりに廃部寸前の女子軽音部が「メガネ・妹・幼なじみのメイド娘達が優しく相手してくれます」と男子部員を勧誘してるし。…ところが、描かれている人間模様はもっとヘビーだし、昨今の芝居にありがちなアニメキャラみたいな戯画化も抑え気味。それどころか「(世間では迫害対象でしかない)オタク男子」にも、この脚本はある種の信頼を寄せているのだ。でなけりゃこんな名句は出てこない→「僕をキモいと言うヒトも、僕以外の人には優しかった。だから、そのヒトタチを鳩(人非人の比喩)とは思えない」

お嬢様キリコに恋するリョウヘイ君(いきなり君づけになる)と、それを後押しする元気印の幼なじみの女の子カシミちゃん(ちゃん付けだし)──という図式だと、普通は「一目惚れのお嬢様」よりも「自分を想ってくれる幼馴染み」を選ぶ事で、コミュニケーション下手のヲタク男が「社会参加を果たすという成長の物語」となるのだが…この作品はわかりやすいラブコメではないのでそうはならない。 バイオリン演奏の失敗を「汚い音を出したのがドレですか?」と咎められるような精神的虐待(このテの『どう回答しても罰せられる質問』は、二重拘束と呼ばれる立派な虐待である)の被害者であるお嬢様、陰湿なイジメの対象になったリョウヘイ君を庇おうとして暴行(劇中ではボカされているが、強姦にまでエスカレートしたと思われる)を受けたカシミ、その事への贖罪意識とイジメのトラウマに悩むリョウヘイ君…という精神的外傷に悩む、(ある種の)弱者連合という出口の無い人間関係の完成の物語なのだ。どっちに転んでも、気持ちいいピリオドが打てない袋小路の主人公…うわぁ(汗)。

いや確かにハッピーな感じで終わっているけど、よくよく考えたら一番ヘビィな問題は残ったまま。リョヘイ君とキリコ様(様て)にとって、これは「成長による脱出」ではなく「問題の先送り」でしかないのだ。カップルを威圧的に見下ろす「虐待ママ」が、その暗黒の象徴している。

萌用語とメイド服女子高生の裏側に描かれてるのは、それはもう残酷な童話。電車男(ヲタク男)をモチーフにした人物像は数多あれど、彼を取り巻く「コミュニケーション不全の女子連合」の精神的病巣まで描いた骨太の作品。オズの魔法使いが、この芝居では「出口の無い精神病理の暗喩」として再利用されている。

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